「高山病」タグアーカイブ

高山病対策

Pocket

ヒマラヤなどの高地でトレッキングを行う場合、高山病というのが最大の懸案のひとつだと思います。日本で体験できる最も高い標高が富士山の3776mですが、特にエベレスト街道でのトレックではその大半がこれより高い標高です。実際ほぼ毎日トレックングエリアの奥深くまでヘリコプターが飛来してトレッカーの救助、カトマンズへの搬送を行っていました。その中にはもちろん負傷者も含まれていたと思いますが、かなりの割合で高山病の症状悪化による搬送者がいたと思います。

標高が上がるほど気温が下がるのは我々は体験的に知っていますが、それと同時に気圧も下がります。気圧が下がると空気が薄くなります。富士山の標高で平地の3分の2、標高5000mでは平地の半分になります。平地からいきなりこの高地にヘリコプターで運ばれてある程度の時間滞在すると酸欠で高山病の症状が出るのではないかと思います。実際にネパール:カトマンズからヒマラヤ山中のナムチェバザールへヘリで飛来してしばらく滞在する観光プランがあるようですが、おそらく短時間しか滞在させないのでしょう。

高山病を防ぐには徐々に標高を上げる(=歩いて登る)ことで身体を少しずつ薄い空気に慣れさせていく他ありません。人間の体は実にうまく作られていて、生まれてから経験したことのない標高であっても時間をかければある程度順応してくれるのです。8000m峰に登頂しようという人達は次元の違う高度順応が必要になると思いますが、トレッキングレベルであれば十分な注意を払うことである程度リスクを下げることができると思います。

事前準備

出発前に日本国内でできる準備です。日頃からよく運動する(これで酸素摂取量を大きくしておく)、定期的に山に登る等に加えて下記のようなものが考えられます。

富士山を利用する

出発直前の9月に2週続けて富士山へ登りました。それほど本格的な技術を必要とせずこの標高を経験できる場所として富士山は貴重な存在です。1回は1泊しできるだけ長時間高所に身体をさらすようにしました。もう1回は長時間の歩行に対応できるように日帰り登山を行いました。いずれも比較的登山者の少ない須走口から登っています。

歩くトレーニングとしては良い方法だと思いますが、高山病対策としては初秋にヒマラヤトレッキングを行う場合しか通用しません。高度順応の効果はそれほど長続きしません(持続期間は1週間という人もいれば2ヶ月という人もいて様々です)。

個人的にはこれは役に立ったと思います。残念ながら富士山の近場の方しかこの方法は使えませんが。

低酸素室の利用

高地トレーニング用の低酸素室というものがあります。人工的に作りだした高所環境で身体を慣らすというものです。本格的に高所登山を行う人たちはここで寝泊まりしたりするそうです。実際の環境を経験してみる、あるいは低酸素に極端に弱い体質ではないか確認するという意味では試してみても良いかと思います。

私はトレッキング前には利用しなかったのですが、体験したことのない高所へ旅行した際に利用したことがあります。

好日山荘 低酸素トレーニング

実際に室内で運動を始めると脈拍が上がりめまいもしてきました。富士山のように徐々に標高を上げていったわけではないので、身体への影響が如実に感じられます。結果的にはこのおかげで高地での順応とその後の活動に非常に役立ったと思います。

他にも低酸素トレーニングを実施している団体は多いと思いますので関心のある方には一考の価値があるかと思います。

山岳医への相談

私は呼吸器に持病があるため事前に医師に相談してみました。国際山岳医に認定された方が日本にも何人かおられますが、その内のお一人がたまたま近くで開業しておられたためそちらへ伺いました。色々なアドバイスもいただけるかと思いますので、もしお近くにそういう方がおられる環境にあれば試してみるのも良いと思います。

高地への旅行

私の場合、たまたまトレッキングの前月に高地への旅行予定がありました。ここでは初日に風邪をこじらせ高山病とあわせて大変な思いをしたのですが、それでも何とか回復し最高高度で4500m前後という未体験の標高を経験することが出来ました。これは肉体面、精神面の両方に非常に役に立ったと思います。

トレッキング中の対策

標高を上げすぎない

1日の標高差を500m以内に抑えるというのが高山病を防ぐ上では重要だそうです。トレッキング会社のプランでも1日に1000m近く高度を上げる日があったりして実際にはなかなか難しいかと思いますが、少なくとも頭には入れておいたほうが良いと思います。

高度順応日を入れる

エベレスト街道でのトレッキングではナムチェバザール(3440m)で1日を高所順応日にあてています。多くのトレッキング会社のプランでも同様です。その後の行程の中で、明日標高を上げるのは難しいなと感じたら適宜休息日を入れるようには意識していました。

水分を大量に取る

水分を大量に摂ることで新陳代謝を促し、高地順応を促進するという意味合いがあるようです。概ね標高と同じ量(4000mなら4000cc)というのが目安のようですがおそらくそこまでは飲めないと思います。食事などに含まれる水分も合わせてなので実際にはもう少し少量でも良いと思います。とにかくできる限り大量に水分を摂るのが鉄則です。エベレストへ登るようなシェルパ達はひと晩で数リットルの水を飲んでしまうそうです。

地元ガイドいわくジンジャー(ショウガ)が高山病に効くという事で、食事時の飲み物はもっぱらジンジャーティーにしていました。

食事をしっかり摂る

体調が悪いとどうしても食欲がなくなります。それほどではない運動量でも高地では極度の疲労を招くことがあり、私も何度か食事を抜いて飲み物だけにせざるを得なかったことがあります。隣室のトレッカーが高山病で夜通し苦しんでいて、日中も水以外一切受け付けない状態のことがありました。本人がどうしても下山したくないと言うので、それならせめてスープだけでも飲むようガイドやロッジスタッフが代わる代わる促していました。食事を摂ることが、新陳代謝促進、身体を温める、カロリー補給(寒いとそれだけでカロリーを消費します)につながり、高山病を含む体調悪化を防止できます。

寒さに注意する

寒さは高山病にかかるリスクを高めます。地元ガイドは特に頭を冷やさないようにと口うるさく言います。身体を冷やすのももちろん良くないので、2500mを超えたら暑いと感じてもアンダーウェアの上に来ているレインジャケットを脱ぐな、ジッパーも下げるなとも言われました。就寝時もできるだけ暖かくして寝ることが欠かせません。

深呼吸する

単純なことで深呼吸によって酸素をより多く肺に送り込むだけです。低酸素室でトレーニングする際にパルスオキシメーターという機器で血中酸素飽和度(SpO2)を測定します。平地では99〜100%ぐらいの数字が出ますが、高地(低酸素室)では80%といった平地なら即入院レベルの数値が出ます。深呼吸することでそれがかなり改善されるので効果はあると思います。

予防薬の服薬

別ページの常備薬のところでも触れたダイアモックス(アセタゾラミド)を予防的に事前に計画的に服用するという方法があります。個人的にはあまり薬に頼ることをしたくなかったので、どちらかというとお守りのようなつもりで持っていました。服用スケジュールなどは専門の医師やガイドに確認してみてください。

同じく標高の高いチベットでは「紅景天」「高原安」という漢方薬が高山病に効くとして有名です。試していた人を見た限りでは劇的に効いたというわけではなかったようです。これもダイアモックス同様、効き目は人によって異なるでしょう。

富士山では簡易酸素吸入スプレーを使っている人をよく見かけました。ヒマラヤでは見たことがありませんでしたが、緊急事態でない限り安易に酸素吸入して順応しようとしている身体の邪魔をしたくないと個人的には思います。ロッジによっては酸素吸入器が置いてあるところがあります(ゴーキョの宿:ゴーキョリゾートにはあったと思います)。

現地医師に診察を受ける

カラパタール方面にあるペリチェには診療所があるので、体調によってはそちらで診察を受けるのもひとつの方法でしょう。

高い標高に着いてすぐに眠らない

これは低地からいきなり高所に到着した場合についてです。高度を上げると妙に眠くなることがあります。これは酸素不足が引き起こす症状で、このまま眠ってしまうと本格的に高山病の発症を招いてしまいます。睡眠時にはどうしても呼吸が浅くなりますので、高地に着いたら散歩するなりして身体を少しでも環境に慣らすことが重要です。

発症してしまったら

基本的には少しでも標高を下げるしかありません。ひどい症状で生きるか死ぬかというような状態だった人が、背負われて標高を下げただけで嘘のように元気になったという話を聞いたことがあります。

私が自分のトレッキング中に考えていたのは

1.体調が悪くなったらその標高で滞在して回復するか様子を見てみる
2.改善しない場合は少し標高を下げてみる
3.どうしても回復できず自力下山も難しい場合、現地の人で背負って下ろしてくれる人がいないか頼んでみる
4.最後の手段としてヘリコプター搬送

1.の状態で何日も同じ標高で粘っているトレッカーがいました。この場合はいったん標高を下げて再挑戦したほうが成功の可能性が高いように思います。

4.は最終手段ですが毎日少なからぬ数のトレッカーが搬送されていました。ヘリでの搬送自体も危険を伴うものなので何とか避けたい事態です。搬送費用は60〜300万円と随分幅があるようです。ヘリ搬送を含む海外旅行保険もしくは山岳保険に入っていなければ、実費負担になってしまいます。

意外なことにシェルパ族でもしばらく平地に滞在してから高地に戻ってくると高山病になることがあるそうです。もともと人間は高地で住むような身体にはできていないという事でしょうか。高地で生まれ育った彼らですらそうなのですから、平地に住むわれわれ日本人が高山病になるのは当たり前だと思えてしまいます。かからなければラッキーだったぐらいに思っておいて、自分の体調を冷静に観察しつつうまく付き合っていくしかないのでしょう。




Pocket